「歩。いまのは良かったな」


優ちゃんが微笑みながら傍に立つ。あたし以上に優ちゃんの方が嬉しそうだ。


「でしょ。あたしもそう思った」

「何かあったのか? すっきりした顔してる」

「うん。……ごめんね、優ちゃん。最近あたし、ひどかったよね」


頼まれるラブレターの苛立ちを、稽古で発散しようとしていた。

師範や優ちゃんに何度怒鳴られただろう。深月だって怒ってた。

その時は自分のことしか見えてなかったけど、きっと部内の雰囲気を悪くしてたと思う。皆に迷惑をかけた。


「確かに最近の歩は、荒れ狂ってたな」


優しく言って、あたしの頭の手ぬぐいごと、髪をぐしゃぐしゃに乱してくる。

汗で汚れてるのにって一瞬思ったけど、いまさらだ。あたしたちが汗だくなのは、いつものことなんだから。


「昔の歩を思い出したよ」

「こいつ、昔からこんなんだったんすか?」


同じく面を外した深月が、いつの間にか優ちゃんの横に立っていて会話に割り込んでくる。

こんなんって、どういう意味だ。


「普段は好きなことを好きなようにやってるから、歩は他より落ち着いてるくらいだよ」