物見の向こうに立つ人は、全身から湯気のようなものを発しているように見えた。


「何考えてる歩! 気合がない!」


怒号のように叫びながらあたしの竹刀を払い、小手、面と次々打ち込んでくる。

気合いは普段の生活でもよく使われる言葉だけど、剣道で用語でもある。全身に気力が充満し、心もそれに一致して相手に隙を与えない状態。

ラストの地稽古で相手をしてくれた優ちゃんは、いままさにその状態だった。

あまりの圧と隙のなさに、足がなかなか前に出ることが出来ない。


「重心ぶれてる! 下がるな! 打ってこい!」


僅かに優ちゃんの竹刀が上がったのを見て、素早く胴を打ち、脇を駆け抜ける……はずだった。

けれど実際は軽くいなされ、鮮やかな応じ技で打ち込まれる。

ギリギリでそれを避けて相打ちからのつばぜり合い。肩で息をするあたしとは対照的に、優ちゃんは一切息を乱さず落ち着いていた。


物見からのぞく薄茶の瞳に炎が揺らめいて見える。冷たくて青い、静かな炎。


「余計なことを考えるな! 無心になれ! 目の前の相手を見ろ!」

「はい!」

「剣先だけ見るな! 全体だ!」