「ごめん強引なことして。……怒ってる?」
彼が余計に話を掻き混ぜてしまった、と。
ぐるぐる頭で考えていたら、先輩がようやく足を止めてくれたのは、敷地内にあるバラ園だった。
朝からここに人がいることは少ないし、何より間もなくホームルーム開始のチャイムが鳴るとあって、あたりに人の気配はない。
ただ静かにバラが咲く透明な箱の中。
窺うように顔を覗き込まれて、ふるふると首を横に振った。
……そんな顔されたら、文句も言えない。
「そっか。よかった」
小さく笑って、彼はバラ園の中にあるテーブルセットにわたしへ促す。
ここでお昼を食べる女の子たちも多くて、だからこそ、ふたりきりというのは不思議な感じだ。
席につきながら、彼は「ここならゆっくり出来そうでしょ」と口にする。
……まあたしかに、ゆっくりできそうだけど。
「……強引なかたちで付き合って、あとから好きだって言って、ずるいとは思うんだけどさ。
ほんとに瑠璃のこと大事にしたいと思ってるんだよ」
「、」
「会長と、あの子に泣かされそうだったから。
……泣かせたくなくて強引なことしちゃった」
ごめんな、と。
そっと頬を撫でられて、また首を横に振る。
頬に触れられても、会長に髪に触れられた時みたいな熱は浮かばない。
その代わり、安堵する優しいぬくもりだった。
「……紫逢先輩」
かたんと席を立って、彼のすぐそばに歩み寄る。
綺麗な二色の瞳でわたしを見上げる彼は、きょとんと不思議そうな顔をした。空気をふくむやわらかな猫っ毛が、どこからか流れ込んできた風に淡く揺れる。



