そのなみだに、ふれさせて。




身勝手だ。

……でもこのままじゃいけないって思って、わたしは別れという答えを出した。



「その人のこと、ずっとすきだったんだけど。

……最近ね、彼女がいること知っちゃって」



「ええ」



「あきらめなきゃ、って思ってたら。

……ほかのひとにね、付き合おうって言われたの」



そのときはまだ知らなかった。

まさか紫逢先輩が、わたしを好きでいてくれているなんて。……きっと軽口だって、思ってた。



「知った気になったわけじゃないんだけど。

その人がわたしのこと理解しようとしてくれて、自分のことも話してくれて。……たぶんそれに、甘えたくなっちゃったんだと思う」



傷つくのを恐れて、ぬるま湯に浸かるように傷つかない道を選んだ。

だけど、傷つくことをわかっていて自ら傷つく道を選ぶ人なんて、少ないと思うの。




「結局、付き合うことにしたんだけど。

……そのあと好きだって言われて、冗談だと思ってた分申し訳ないし、ちーくんにも申し訳ないことをしちゃったって思って」



後悔はしてない。

間違ったこともしていないと思う。



でもこれが正解だったのか問われたら、素直にうなずけない。

ばかみたいに、天邪鬼だから。



「瑠璃の話を整理すると、つまり好きな人をあきらめるために、自分を好きでいてくれる人を選んだのよね?

……それって別に、だめなことじゃないでしょう?」



「……そうなのかな」



「だって千勢とは一度付き合って好きになれなかったのよね?

いいじゃない。いま誰かを選んだからって、この先ずっとその人と添い遂げていくわけでもないんだから。むしろその相手を見つけるために、恋愛してるんでしょう?」



「そう……だね」