そのなみだに、ふれさせて。




子どもじみた理由。

もちろんほかにも理由はあって、それの方がわたしにとっては大事な事柄だけど。わたしの気持ちにとっては、これも大事な理由のひとつだった。



「それもそうね……

っていうか会長こそ、髪染めたりしないの?」



「染め直すのめんどくせえだろ」



「え、そんな理由?

会長以上にめんどくさがりの紫逢でさえ、あたしよりマメに髪染め直してるのに?」



「コイツはただモテたいだけだろ?」



「違うから。

えっ、会長にそんな風に思われてたの俺!?」



わいわいがやがやと盛り上がる上級生組。

邪魔しないようにとパソコンを起動して、テーブルに置かれたファイルのひとつをめくる。




そろそろ、夏休みに部活で行われる合宿費用の割り当てとか計算しなきゃいけないし。

予算オーバーすると冬休みや春休みに使えなくなってしまったり、はたまた必要な備品が買えなくなったりしてしまうから、結構重要な仕事だ。



とはいえわたしは会計補佐の身。

わたしがチェックしたもののすべては、再度葛西先輩がすべてチェックしてから受理されることになっている。



そういう面ではすごく頼りにしてるんだけどな。



「こらこら、3人とも。

麻生と萩原に仕事任せて何してるの?」



プリントに並ぶ数字をしばし追っていれば、不意に耳に届いた声。

3人の話し声にかき消されて気づかなかったけれど、どうやら生徒会役員の最後のひとりが帰ってきたらしい。



菅原(すがわら) 最果(もか)先輩。

もうひとりの副会長で、会長と同じ3年生。マイナスイオンが放出されてるんじゃないかなと思ってしまうほど、誰にでも優しくて博愛主義だ。



いまの生徒会の纏め役。

今日も理事長に呼び出されてしまったようで、わたしが屋上に行くよりも早くからずっと、彼だけリビングにいなかった。