そのなみだに、ふれさせて。




ななみを連れてリビングに入り、その先の洗面所に向かう。

台の上に彼女をおろして、手洗いうがいをさせてから、リビングにもどった。



「にぃに、っ」



「おかえり、ななみ」



すぐに瀬奈に駆け寄って行くななみを見て、笑みがこぼれる。

勉強していた手を止めた瀬奈に構ってもらえるのがうれしいのか、満面の笑みで抱きついていた。



かわいすぎる。

いっくんが娘を溺愛しているのも、瀬奈がすでにシスコン気味なのも理解できる。わたしだって、こんなに可愛い妹がいたら溺愛しちゃうもん。



「ななみ、お兄ちゃん勉強するんだって。

お姉ちゃんと一緒にこっちで遊ぼう?」



おいで、と。

敷かれているラグに彼女を呼び寄せると、ななみはお利口に瀬奈から離れた。




夕方に放送している子ども向けの番組がテレビではじまると、ななみの興味はそっちに釘付けになる。

おとなしく見てくれているから、ポケットから取り出したスマホに溜まった通知を確認した。



大したものは特になくて、唯一返さなきゃいけないのは、『転校生見た?』というメッセージくらい。

送り主は、同じクラスで出会ってすぐに仲良くなった男の子で、名前は粟田(あわた)なるせくん。



前に他校の彼女さんの写真を見せてもらったけれど、すごく可愛くて。

たくさん惚気話も聞かされるし、断じてわたしとなるせくんの間に恋愛感情は存在しない。



『みてないよ』と返せば、すぐに既読がついた。



『うちのクラスなんだけど、美人だってみんな騒いでたよ。

昼休みに生徒会長がわざわざ教室まで迎えに来てたから、会長の彼女だって噂もあるんだけど何か知ってる?』



……やっぱり昼休み、彼女さんと、いたんだ。

そうだよね、彼女、なんだもんね。



……会長の好きなひと、なんだよね。