そのなみだに、ふれさせて。




"ニューヨーク"。

その単語にぴたりと動きを止めたわたし。



顔を上げれば。

わたしの言いたいことなんてお見通しらしい南々ちゃんは、花のように綺麗な笑みを浮かべて。



「時間をつくって翡翠と会うから、

瑠璃にも連絡入れるって、言ってたわよ」



告げられた言葉に、なぜだか泣きそうになる。

わたしの、双子のお兄ちゃん。大事な大事な、わたしの、変わりなんて存在しない、片割れ。



「そっか……元気、かな」



「……瑠璃。

翡翠が渡米してから、まだ一週間しか経ってないよ」



困ったように笑うちーくん。

確かにその通りで、翡翠が留学するために渡米したのは先週のことだ。──王学の、留学制度。




南々ちゃんが生徒会長をつとめた年、王学は、新たに異国交流という取り組みを開始した。

長年続いたそれのおかげで世界各国の高校と姉妹校というつながりを結んだ王学では、いま数ヶ国の姉妹校へ留学をすることができる。



翡翠はそれを使って、現在、ニューヨークへ留学中だ。

学校がはじまるのは9月からだけど、一足先に渡米して、向こうの空気に慣れてくるらしい。……何も3ヶ月も前に行かなくたって、いいのに。



それでも翡翠が決めたことなんだから、文句は言えない。

"さみしい"なんてわたしのわがままで、翡翠の自由を縛ることなんてできない。



いくら双子だからって、これからもずっと一緒にいられるわけじゃない。

いろちゃんや呉ちゃんみたいに、自分の進みたい道に向かっていかなきゃいけないんだから。



「連絡とってるんでしょ?

それなら、心配することなんてないよ」



テーブルの上に広げられたノート。

シャーペンを握っているのにそこに長らく文字を並べられないわたしを見て、紅茶を飲みながら言うちーくん。



さっき南々ちゃんが部屋に持ってきてくれたそれは、綺麗なアガット色。

どうやら、ローズヒップティーを淹れてくれたらしい。