名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げる。
すぐそばで目線を合わせたいっくんは、指先でわたしの目元に残る涙をぬぐってくれた。
「言っただろ。あいつは無理しがちだって」
「………」
「……お前らの母親にな。あいつは頭下げに行ったんだよ。何度も何度も。
『翡翠の留学費用もお前の生活費も、何なら全部こっちで負担する。だから瑠璃が望むなら面倒を見てくれ』って」
「え……」
頭の中が真っ白になった。
真っ白になって、また知らないうちに涙があふれてくる。
……なん、で? なんで、わざわざ?
そこまでしたって、南々ちゃんには、何のメリットもないはずなのに。
「……お前が寂しい思いしてんの、知ってたから。
いつでも母親のところに戻れるようにって、あいつは何度も頼みに行ってたんだよ」
「ッ、」
わたしのため。
そんなこと言われなくたってわかるはずなのに、どうして。どうして、ここまで言われてようやく、南々ちゃんの愛情の大きさに気づくんだろう。
「でもまあ、お前の気持ちも分からなくはない。
……だけどな。南々瀬が、そんなこと把握してないわけがないだろ。あいつらがシスコンでお前がブラコンだってことは、誰もが知ってんだよ」
「、」
「お前なら絶対にそう言うって分かってた。
それなのに南々瀬が、お前を泣かせてまでこうやって言わせた理由は分かるか?」
わたしが絶対に「嫌」と言うのをわかっていて。
それでもって、南々ちゃんが、わたしに「嫌」と言わせた理由……?



