「っ、なのに、
そこに気持ちがないなら何の意味もないよ……!」
南々ちゃんがわたしと翡翠にくれるものは、間違いなく愛情だった。
突然押し付けられたのに嫌な顔一つせず、瀬奈やななみを育てるのと同じように、わたしたちを大事にしてくれた。
だからひどいことを言ってしまうなら、何度も何度もその優しさが痛かったの。
しあわせと苦しみは、いつだって隣り合わせだった。
ふたつの表札がかかっていたあの家にいた時からそう。
複雑なかたちだったけど、それでも家族として一緒にいられるのはしあわせだった。だけど、彩さんやいろちゃんへの、戸籍上で家族になれないふたりへの、そこはかとない罪悪感がいつだって心の根底にあった。
「瑠璃、」
「っ、ぜったい会いたくなんてない……!」
ずるいんだって知ってる。
苦しくてもしあわせなら、それはしあわせだってことを、もうわたしは知ってるの。
だって苦しい時は、本当に苦しいだけだから。
その苦しみを知ったから、しあわせだったんだって、何度も何度も自覚していた。
だけどそれでも、そんな理屈で納得できるほどおとなじゃなかった。
わたしはわたしのままで。お兄ちゃんたちに甘えて生きてきた子どものままだった。
「……どうした? なに騒いでるんだ」
カチャッと、リビングの扉が開いたのが音でわかる。
涙でぐちゃぐちゃの視界を拭うと、予想した通りいっくんの姿があって。
「……おかえりなさい」
南々ちゃんが、声をかける。
その表情は綺麗だったけど、泣きそうに見えた。
だから余計にじわじわと涙の気配が増す。
こんなにも親切にしてもらっているのに、さすがに南々ちゃんに対して言いすぎた。いまさら「しまった」と焦燥感が湧き上がったって、もう遅い。



