そのなみだに、ふれさせて。




……たしかに、それはちょっと気になる。

ほづみちゃんは御陵家という特殊な家の出身で、なんというか、日常的に偶然出会うような相手ではないような気がした。



まあ、そうは言っても、日常的な流れで転校生として知り合ったわけだけど。

あの子には、不思議な雰囲気がある。



「葛西も宮原も、一応御陵と面識はあって、たぶんあの子とも幼い頃に会ってると思うんだよね。

……でも、"瀬戸内"は聞いたことないな」



そういえば、紫逢先輩ははじめから彼女のことを"御陵嬢"と呼んでいた。

……知り合いだったのか。



「菅原先輩なら、

何か知ってるかもしれないですよ?」



先輩の家も、どうやらつながりがあるようだし。

何より彼は会長と同じ3年生だ。この学校では、ほづみちゃんと菅原先輩だけが、会長のことを「雨音」と呼ぶ。



裏を返せば、会長が名前で呼ぶのもそのふたりだけだけど。

……いまの生徒会役員は、名前で呼び合えるほど、親しく踏み込んでいけるような仲じゃないから。




「……いや、うん。いい。

どうせなら、直接本人に聞いたほうが早いし」



……まあ、確かにそれがいちばんはやい。

でもわざわざ聞きたがるなんて、紫逢先輩はあの子に興味があるんだろうか、と。



そんなことを考えてわずかにざらりと思考が波立つのを感じたけれど、すぐに思考を切り替える。

先輩はわたしのことを好きだって言ってくれてるんだから、そんなふうに余計なことを考えるのは、失礼だ。



「……そうだ。

瑠璃、土曜日俺とデートしない?」



「土曜日、ですか……?

あの……土曜日は、ちょっと予定があって」



決してやましいことがあるわけではないのだが、もごもごと口を開きかけて黙るわたし。

だって土曜日はいろちゃんが来るって、昨日南々ちゃんに聞いたんだもん……!



だからこそ、昨日は会長のことを深く考えずに済んだっていうのもある。

今日はまだ顔を合わせてないけど、さすがにこのままずっと、ってわけにもいかないし。