そのなみだに、ふれさせて。




シスコン具合がひどい。

しかも3人とも妹の目から見たってかっこいいんだから、その中身が重度のシスコンだなんて、本当に残念すぎる。ある意味詐欺だよ……!



「愛されてるんだよ、お姫様」



くすくすと、ちーくんが楽しげに笑う。

やわらかいその笑みを見ていたらそれ以上文句は言えなくて、口をつぐんだ。



学校を出てしばらく歩くと、あたりは一気に高級住宅街。その奥にある、いちばん大きなお家。

筆記体で『SUOU』の文字が刻まれたネームプレートがかかるその家は、ご近所でも有名だった。



誰か帰ってるかな、と思いながらドアノブに手を掛ければ、ガチャッという音とともに開く。

どうやら今日は、誰かが先に帰宅しているらしい。



「ただいまぁ」



声を投げてドアを大きく開くと、ちーくんに先に入ってもらう。

彼の「お邪魔します」の声を聞きながら玄関のドアを閉めて、振り返ればリビングの電気がついているのが見えた。




「おかえりなさい。

あら、今日は千勢も一緒なのね」



リビングの扉を開くと同時に、耳に届く声。

ダイニングテーブルの上に乗せられているノートパソコン。その液晶を見つめていた瞳は、わたしたちを見て、やわらかく細められた。



「こんにちは。

おひさしぶりです、南々(なな)さん」



「ちーくんと一緒に勉強するのー。

南々ちゃんがこの時間にいるってことは、今日はお仕事はやく終わったの?」



珠王(すおう) 南々瀬(ななせ)ちゃん。

王学には芸能科があって、主にそこの生徒は大手芸能事務所であるエイトプロダクション、通称8プロに所属する。



その8プロの若き敏腕女社長と言われるのが、南々ちゃんだ。

王学で、初の女性生徒会長になった人でもある。



「ふふ、うん。雑誌の仕事が予定よりもはやく終わったから、さっき帰ってきたのよ。

でも、瑠璃がこの時間に帰ってくるんだったら、呉羽のこと引き止めておけばよかったわね」