「さっきも、聞いたけど。
……やっぱり瑠璃は、できることなら、会長と付き合いたいって思ってる?」
「……わかんなくなりました」
3階の、先輩たちの部屋が並ぶ廊下。
開錠して扉を開けたままにしてくれる彼にお礼を言ってから、「お邪魔します」と部屋に上がる。
「それは……
会長に対する気持ちが、ってこと?」
「それは変わんなくて……好き、なんです。
でも、いま、彼女になりたいかって聞かれたら、そうじゃない気がして」
散らかってるなんて言ってたけど、シックに纏められた部屋はオシャレに片付けられていた。
振り返ろうとしたら、後ろからぎゅっと抱きしめられる。……紫逢先輩って、結構甘えたな人なのかもしれない。
今度こそ振り返れば、くちびるを重ねられる。
途中で深くなるキスに、さっきとは違う靄が思考を覆う。上手く呼吸できなくて、漏れる吐息。
「紫逢、せんぱ、」
キスの隙間で名前を呼べば、彼がゆっくりくちびるを離す。
頼りなく見つめたせいか、紫逢先輩は「泣きそう」なんて小さく笑って、わたしの頬を撫でた。
「……ちゃんと、俺の腕の中にいて」
「っ、」
「離れないで。
……俺の大切な女の子のこと、俺だけに守らせてよ」
耳元で囁かれる声がくすぐったい。
……大丈夫だ。紫逢先輩は、わたしが泣いているとき、自分のことよりもわたしを優先してくれた。
その言葉に嘘がないってわかってる。
紫逢先輩を見つめれば、彼は色の違う双眸をどこか甘やかに細めて。もう一度、わたしにキスを落とした。



