……いや、"どうして"は、違うか。
ほんのすこし、感じていた違和感。それを確かめたくて、わざと俺は朝に特進1年の廊下で会長と出くわした時、挑発的な態度をとった。
でもまさか。
こんなふうに動くとは思わなくて。
「ごめん、なさい……
わたし、どうしたらいいのか、わかんなくなっちゃって……」
「……瑠璃が謝る必要はないよ」
抱き寄せて、優しく囁きかける。
何より、俺に素直に言ってくれてよかった。変に黙っていられるよりも、こうやって頼ってくれた方が全然良い。
「忘れればいい。
……とか言っても無理だろうけど」
好きな人にいきなりキスされたら誰だって驚く。
しかも相手は彼女持ちとなれば、瑠璃の精神的な面がぐちゃぐちゃになったって何もおかしくはない。
……にしても、マジで何考えてんだか。
あえて俺のいないタイミングで瑠璃を呼び出したとなると、俺への宣戦布告?
「顔上げて、瑠璃」
彼女の頬に手を添えて、顔を上げさせる。
瞬く瑠璃に「キスしていい?」と問えば、彼女はじっと俺を見つめて、まぶたを伏せた。
「……ごめんな、泣かせて」
「っ……紫逢先輩のせいじゃないです、っ」
言葉を紡ごうとするのを邪魔するように、くちびるを塞ぐ。
何度も重ねて呼吸を奪えば、瑠璃の身体から力が抜けていくのがわかった。
息苦しそうなことに気づいて、ゆっくりとくちびるを離す。
もう泣いてはいなかったけど、泣いたその痕跡を見るだけで、ひどくやるせなくなる。



