そのなみだに、ふれさせて。




綺麗な黒髪を撫でて、「どした?」と優しく問い掛ける。

ぐすっと鼻をすすった彼女は、何度も何度も縋るように俺の名前を呼ぶ。何かあった?なんて、そんな分かりきったことは聞かないけれど。



ひとまず泣き止ませようと、無理に言葉を引き出させることなく背中を撫でてやれば。

彼女はしばらく泣いて、真っ赤になった目で俺を見上げる。空はもう随分と暗くて、夜になっていた。



「落ち着いた?」



「……はい」



「ならよかった。

……何があったか、俺に話せる?」



抱きついままま離れない瑠璃に、不謹慎だけど頬が緩む。

座ろうかと促してようやく離れても、不安そうな彼女は小さな手で俺の手を握った。



……そんな、不安に、させるようなこと。

何かしたっけ?と薄ら思いながら瑠璃の手を握り返すと、彼女はぽろっと一粒だけ涙を落として。




「お昼休み……

会長が、わたしのところに、来て、」



「ん。……それで?」



「………」



「……瑠璃?」



俺の手を握る彼女の手に、きゅっと力が込められる。

それから、声を震わせて、また泣きそうになりながら。



「キス、されたんです」



放たれた言葉に、頭の中が真っ白になった。

真っ白になったのに、次の瞬間渦巻く色は黒で。──どうして、とかすれた声は、目の前の彼女にすら届かなかった。