その一言で、呼ばれた理由に気づいた。
それはつまり。あけみと結婚しろ、と。……自分が倒れたことを気にして、跡継ぎ問題を何とかしておきたいのか。
「失礼ですが、お断りします」
「紫逢、貴方ね……」
「真剣に交際している女性がいるので」
そもそもあなたは俺の母親でもないけどな、と。
口を挟んできた奥様に対して若干の黒い感情を抱きつつ、そう口に出せば。今度は奥様が、鋭い目を細めて、さらに鋭い視線で。
「一体どこの娘と交際しているの?」
……ほら出た。だから嫌なんだよ。
この家の人間は。世間体とか、格式とか、家柄とか。そんな言葉はもう聞き飽きた。……どうして俺がこんな派手な容姿でいるのか、本当にわかってない。
「普通の女の子です。
父親の話は聞いていませんが、母親はいません」
「……他界したのか?」
「、」
違う、ことは、わかる。
瑠璃は「母親に捨てられた」と言っていた。そして居候していることを考える限り、父親とも接点は限りなく薄いはずだ。
「いえ。……でも両親のことは関係ありません。
さっきも言いましたけど、真剣に、」
お付き合いしています、と。
言いかけたところで鳴り響く着信音。静かな家の中には十分すぎるそれの発信源に気づいて、「すみません」とスマホを取り出した。
……慌ただしかったから、マナーモードに切り替えるのを忘れていた。
カチッとそれをバイブレーションに切り替えたのはよかったものの、画面に表示されているのは着信。しかも相手は『麻生 瑠璃』。



