そのなみだに、ふれさせて。




◆ Side紫逢



はやる気持ちはあっても、決して慌ただしく足音なんて立ててはいけない。

それがここ葛西家本邸で、今日も実家の中はひどく静かだ。



「、」



母親に呼び出されたことは、連絡が来たときにあけみにだけ伝えた。

瑠璃には詳しいことを伝えられてないけど、きっとあの子にいま事情を話しても、困るだけだろう。



俺の家の話を聞いたばかりなのに、父親が倒れたなんて聞かされたら、間違いなくあの子は困惑する。

きっと俺以上に焦る、と。想像がつくから、すこしだけ笑えた。



「紫逢様。……旦那様がお呼びですよ」



「ん、了解」



倒れたといえど、もう意識は回復してるけど。

父親が安静を言い渡されて眠っている広間に向かえば、俺の母親と父親の本妻まで揃っていた。




……堅苦しいの、キライなんだけどな。



ふっと肩の力を抜いて、俺を呼ぶ父親のそばに歩み寄る。布団に横になっている父親がいつもより小さく見えたなんて、一体どんな目の錯覚なのやら。

和装が崩れないように正座して、「なんでしょう?」と問い掛けた。



「……お前、

宮原嬢とは相変わらず仲良くしているのか?」



……なんであけみがいま話題に出てくるんだ。

まあいいけど。「ええ」と返せば、そうか、と端的な返事。なにこれ。俺あけみとの仲を聞くためだけに呼び出されたわけ?



「葛西を継げるのは、お前しかいないからな」



「、」



「宮原嬢ならば、相手として劣らんだろ」