「麻生」
「……なんですか?」
「お前、葛西のこと好きだったのか?」
ぐっと。言葉に詰まって、彼を見る。
……なんてことないそんな質問に、わたしが揺らされてること。わかってやっているんだろうかと、彼を疑ってしまいそうになる。
「好きですよ。……いい人じゃないですか」
ぽつり。
告げて、カラになったお弁当箱に蓋をする。保冷バッグにそれを入れて、顔を上げたタイミングで。──視線が絡んで、身動きできない。
……なにか、言ってほしい。
黙ったままでいられると、すごく怖くなる。
「その"好き"は、恋愛感情の好きか?」
「……会長には、関係ないですよね」
踏み込んでこられるのが怖い。
わたしの気持ちをすぐに知られてしまいそうで。
「……そうだな。
お前と葛西が付き合おうが、俺には関係ない」
……ほら。
会長にはほづみちゃんがいるんだから、わたしが誰を好きだったとしても、彼には何の関係もない。──なのに。
「……関係ねえけど。
俺にも、納得できないことがある」
彼の言葉を、頭の中で噛み砕けたのは。
くちびるに、ミルクセーキの甘さが触れたあとだった。



