隣に、ほづみちゃんはいない。
穴が開くんじゃないかってほどに集めている視線。……それにほんのすこしも物怖じすることなく、会長はその瞳をゆるやかに細めて。
「麻生」
ただただ穏やかな声で、わたしを呼ぶ。
「……はい」
こんなに視線を集める中で名前を呼ばれるなんて、わたしにとっては苦痛でしかないんだけど。
その漆黒の瞳にとらえられるだけで、閉じ込められたみたいに動けなくなる。
魅せられて、どうしようもなくなる。
返事したわたしに、彼がふっと口角を上げるから。
人前で笑みを見せることの少ない彼のレアな表情に、また周囲がざわつきを見せる。
……もう、本当に。今日はなんだって言うんだ。
目まぐるしく感情が回りすぎて、情緒不安定だ。
「このあと少し付き合ってくれないか?」
「え、」
「……いや、先約があるなら構わない」
そ、れは……できることなら、会長にお供したいけど。
先に女の子たちに誘われちゃったし、と。探るように視線を向けたわたしに、女の子たちは慌てて口を開く。
「あたしたちのことなら気にせず……!
瑠璃ちゃんいってらっしゃい……!」
瑠璃ちゃん? いま"瑠璃ちゃん"って言った?
……って、そうじゃない。こんな人目のあるところで「いってらっしゃい」なんて送り出されても。



