「抱きついても、いいですか」
「え!?」
「……だめですか?」
そんなに大袈裟におどろかれたらちょっとショックなんだけど、と。
目に見えてシュンとしてしまったわたしに気づいたのか、「や、違!そうじゃなくて……!」と慌てて彼が声を上げる。
「まさかそんなお願いされると思わなくてびっくりしただけ。
全然甘えてくれていいよ。……おいで、瑠璃」
椅子の背もたれから軽く身を起こした先輩が、わたしに向かって腕を広げる。
一歩だけ足を踏み出して、そろりと彼の背中に腕を回した。
……自分でもびっくりするぐらい大胆なことをして、ちょっとはずかしい。
顔を隠すために、彼の肩に顔をうずめた。やっぱりこの人からは、すごく透明な和の香りがする。
「……どうして今日、あの場にいたんですか?」
「ん? 朝は生徒会棟にいたんだけど、あけみの機嫌が悪くて口喧嘩したんだよね。
……いつもより結構キツい喧嘩したからなんとなくリビングにいるの嫌だったし、瑠璃が今日来ないのも知ってたから」
会いに行こうと思って、と。
わたしを抱き締め返した紫逢先輩は、わたしの頭を撫でてくれる。
……こんなこと思うの、失礼かもしれないけど。
紫逢先輩って、お兄ちゃんみたいだ。
「瑠璃……顔上げて?」
わたしが立っているせいで、彼の肩にわたしの黒髪が垂れるように落ちている。
顔を上げたらそれが彼の肩を這うように流れたけれど、そんなことを気にする余裕もなかった。
「……キスしていい?」



