そのなみだに、ふれさせて。




「おかえりなさい、菅原先輩。

理事長の用事、なんだったんですか?」



ちーくんの隣に座る菅原先輩に、声をかける。

そうすればシルバーフレームのメガネの奥の瞳をゆるく細めた彼は、脱力するように小さく笑って。



「転校してくる女の子に、この学園のこととか、色々説明してたんだよ。

本当は雨音の仕事だったらしいけど、絶対来ないからって俺が呼び出されたんだよね」



「……会長。

面倒な仕事押し付けないであげてくださ……ん?」



ちょっとまった。

会長の仕事を菅原先輩が押し付けられたことよりも、引っかかることがある。



「……転校生?」



転校って……

学校から学校へと移る、あの転校だよね?




「王学って、もとの倍率がとんでもなく高い分、

転校生の受け入れはしてないはずですよね?」



「そうね。過去に異例で一件だけあったって資料で見たことがあるけど、あれは色々絡んでたみたいだし。

何より歴代生徒の中で最も成績優秀だったから、文句も出なかったそうよ」



ならばどうして、転校生が入ってくるのか。

訝るわたしたちに、菅原先輩は「あのね」と話を続けた。



「あとでわかると思うけど、その子、家庭環境が色々と特殊なんだ。

だからその関係で許可されたみたいだよ。……そうだよね?雨音」



「……『そうだよね?』も何も。

俺はいまはじめて聞いたぞ、その話」



「うん。

ほづみちゃん、内緒にしてるって言ってた」



"ほづみちゃん"。

どうやら転校生の名前だと思われるそれを菅原先輩が口にした瞬間。──会長は、彼にしてはめずらしいほどわかりやすく、目を見張った。