後ろから声をかけられて、さも驚いたような演技をしながら静が振り返る。

肩をふるわせた後に、ダメ押しで目元を緩ませて唇を釣り上げてから振り返るのだってお手の物だ。

細かい所までこだわる性格のお陰で静がボロを出したことは一度もない。



「あ、奈津。この子が話があるって言うから」


「それって、彼女との約束破ってまで?そんなに大切なの?」


「えぇ?何言っているの?奈津が一番大切だよ」


後輩ちゃんになんて見えないからその薄ら寒い微笑みを引っ込めてもらいたい。

まるで、私のことを本当に好きで、大切な人だと言っているような甘い声も耳障りだ。

静の言う真っ赤な嘘に心が跳ねることも、痛むことももうない。

淡々とテンプレートのように会話を続けた。