ゆっくり静かに、後ろ手でドアを閉める。

そのままの慎重さでそっと、彼女と窓の間に回りこんだ。


僅かな呼吸音とともに、小さく上下する薄い肩。

窓から差し込む陽の光に、彼女の長い栗色の髪がきらめいている。

今は固く閉じられた、まぶた。

そのふちを彩るのは、長く艶やかなまつ毛だ。

今日が少し暑いからか、その白い頬は若干赤く色付いていて。

薄く開いたくちびるは、ふっくらとやわらかそうなさくらんぼ色。


気づけば俺は、手を伸ばしていた。



「……ッ、」



伸ばした右手の指先が、彼女の頬に触れる直前。

ようやく我に返った俺は、ハッとして手を引っ込める。


──俺、今。

一体、何をしようと、した?


呆然と、自分の右手を見つめた。

それからゆるゆると、顔を上げる。

俺はきつく右手のこぶしを握りしめてから、そっと、彼女から距離をとった。