私はたかだかクラスメートにさえ選ばれなかった夢見がちなただの女子高生であることを知りたくなかった。
演技で五人が選ばれたわけではないのだろうけれど、木下雪乃の視野にすら入らなかったことが、自分の女優としての将来性の無さを差しているようで怖かった。
傷つきたくなかった。
それからの時間はよく覚えていない。役のある人には台本を渡されて、裏方は担当責任者を決めてと、お決まりの流れだったから、よく覚えてる人もいないと思うけど、そういうことじゃなくて。
私は気がついたら、またあの公園のジャングルジムに上っていた。
「っ」
何か言おうとして何も出てこなかった。
何か思ってるはずなのに何も思い付かない。
言葉にならない。
例えどんなに素晴らしい言葉を思いついても、今は全部が空しいんだと思う。
「あっ、本当だ」
だから、これは私の言葉じゃない。
「うん。この間もこのジャングルジムの上にいたんだ」
それが指すのは私のことで、それを知っているのは井上奏太だけ。
そして、その隣にいるのは、
「木下雪乃です。突然、すみません」
そう。私が今最も恐れている人だ。
なんで教えたのだと井上奏太をチラリと見るが、心底嬉しそうに隣にいる木下雪乃だけを見つめている。こちらなんてチラリとも見ない。
そうか。なんで、なんて関係ないのか。
木下雪乃が私に会いたいと望んだから、井上奏太は嬉々として私がここにいるかもと伝えた。ただ、それだけ。
そして、最悪。


