少し木下の顔は強ばったけど、思ったとおひそこまでのダメージは与えていない。
「確かに夢は隠して置きたいかもしれないけど、自分まで隠して守ることないんじゃないか?」
「まあね」
木下は諦めたようにため息をつく。
「でも、そこまで器用じゃないの。夢と自分は切り離せない。自分の夢をバカにするかもしれない人には、私は心を開けない」
「………俺は?」
「例外よ」
それ以上答えるつもりはないらしく、図書室から出るように顎で示される。
なぜ例外なのか彼女のその口から聞き出したい衝動に駆られたが、答えがないことくらい予想はできた。
俺もため息をつく。
「まあ、楽しみにしてるよ。木下の脚本」
「………ねえ、一つ聞いていい?」
「内容によるな」
「脚本の配役って、私が決めていいと思う?」
「どういう意味?」
「例えば…私がこのキャラは加々見くんに演じてほしいとか、口出しするの」
言われて一瞬驚いたけど、考えてみれば別におかしな話でもなかった。世の中にはあてがきという書き方もあるのだ。
しかし、それ以上に学校という場所は極めて狭いコミュニティの中で複雑な均衡を保った場所である。
「反対意見退ける自信があるなら、止めはしない。けど、お勧めもしない。これまで通り静かに学校生活を送りたいなら、尚更」
「わかってる」
「じゃあ、聞くなよ」
真剣に言ってやったのに、そんなの今さらだと言われるとやっぱり腹が立つ。
「もう私の静かな学校生活は壊れてるの。訊きたかったのは、私が加々見くんにお願いしたら、加々見くん自身は嫌なのか、それだけよ」
少し赤くなりながらも真っ直ぐにこちらを見る木下は、なんだか新鮮だった。


