「でも、謝ったのは撤回しようかな」
「なにそれ」
「なんだろうね。強いて言うなら………」
「言うなら?」
普段の彼女からは想像もつかないような挑戦的な瞳を受け止めて、自分も意地悪そうに目を細めてみる。
「気まぐれかな。もともと、謝るのも趣味じゃない」
「謝るのが趣味な人なんていないと思うけど」
「確かに。けど、感謝も謝罪もない関係はある意味フェアで健全だ。木下とはそういう関係がいい」
ひねくれながらも同意してやると木下は心なしか笑った。いつものクラスのトモダチに見せるようなやつじゃなくて、いかにも変人木下的な笑い方だった。
しかし、好みな笑い方ではある。
「加々見学は二重人格なんだ」
木下が図書室の鍵と思われるものチェーンを手でクルクル回す。
「木下には言われたくないな」
「なんで?」
「だってそこは“人間なんて誰しも二重人格なのよ”だろ」
「はー?それは、誰のマネしてるのかなー?」
そう少し楽しそうに怒ったフリをする木下は、女子高生らしい。
「なあ」
「ん?」
「普段もそれくらいでいれば?」
踏みいった台詞だったけど、今なら勢いで言える気がした。


