明日、話さない確率の方が高いクラスメートに告げるその言葉は、なんだか空々しい。
そして、そんなこと思った自分に驚いた。
そんなものは今まで気にしたこともなかったと気づいて。
変に吹っ切れている木下相手だからこそ、そう思ったのかもしれない。
そう結論付けて逃げるようにして去ろうとした。
その時だった。
「ありがとう」
その小さすぎて空耳かと疑うような言葉を聞いたのは。
「何が……?」
思わず足を止めて聞き返すと、返ってきたのは、
「謝罪じゃなくて、感謝がほしい」
「は?」
「だから………悪かったじゃなくて、ありがとうって言うなら言えば?」
俺は口をあんぐり開けたまましばらく動けなかった。
今、こいつは何て言ったんだ。
なんなんだろう。こいつは。木下の思考回路が全く理解できない。
つまり、あの“ありがとう”は向けられた感謝ではなく、「お前のせいなのに脚本引き受けてやったんだから、自己満足の謝罪なんて吐く暇あったら、“ありがとう”ってちゃんと言えよ、このやろう」という強要だったわけだ。
なんだか、騙されたような気持ちになった。木下にお礼を何にせよ言われたかもしれないという期待。それに振り返ってしまったことがバカみたいだと思った。
だから、
「言わないよ」
そう言った。
振り回されるのは趣味じゃない。


