「まあね。私は傷つけられるのに弱いけど、人を傷つけることには鈍感なの」
「随分都合がいいな」
「人間なんてそんなものよ」
なるほど。木下という人物は変なところで吹っ切れている。
良いか悪いかは別にして。
「何の用?」
一人で納得していると木下はカバンを持って帰りたそうにしている。
止める理由もなかった。なぜなら、
「いや、もう済んだ。木下に謝りにきただけだから」
それも思いついただけの話だけど。
本音を言えばこのまま引き留めて、なぜ脚本を引き受けることにしたのかを訊きたかった。だが、木下には答える義理がないだろう。
それに俺は今自己満足に浸っている。それで充分だろう。
俺は木下に手を振った。
「また、明日」


