木下雪乃は何か言い返そうとして口を開いたが、やがて閉ざした。


「語れない夢なんて、言ってしまえばただの夢だ」


私はそっと木下雪乃の頭を撫でた。思えば、木下雪乃の髪はいじったことがない。

今度、木下雪乃の無造作なストレートの黒髪を結ってあげようか、そう思いながら、手を離した。


「語れない夢を私が夢見ていたいんだ。今日の話し合いで、いい返事待ってる」


その場を立ち去ろうと立ち上がる。

木下雪乃がやってくれるかは分からない。けど、やれることはやった。


だからだろうか。根拠のない自信があった。

今まで語れなかった夢、言ってしまえば本当にただの夢でしかない。


特別でもなんでもない。

けど、大切なものだから奥にしまうことで守ってた。

夢を守ることだけ覚えて、夢を追い駆けることを忘れていた。


子供にも大人にもなりきれない私たちは、そうやって生きてきた。

けど、心のどこかで思ってる。


それは夢の実現。


必ず、木下雪乃は食いついてくる。


「待って」


ガタッと椅子が机にぶつかる音がした。


「ん?」

私はゆっくり振り返った。


「私の専門は小説なんだけど」


ほら。


「そもそも他にうちのクラスで物語を書いてる奴を、私は他に知らない」

「それは………」


書けない理由を探すような台詞は、もう一押し私から書く理由が何か欲しいのだろう。


けど、そんなものあげない。


こい。

自分で、自分の責任で。言い逃れのできないところまで。


夢を叶えるにはそれくらいしないと始まらない。