「えっ」
突然の声に私は驚いた。今日はカウンター業務がなっていない。
顔を上げると、そこには加々見学が立っていた。彼もまたクラスメートである。が、彼はこんなところで本を借りるタイプじゃないような気がする。
案の定、
「あー、まあ興味もないし答えは要りません。先生を探しに来たのですが、ここは貴女以外誰も居ないみたいですね」
「はい。まあ、そうです」
クラスメートなのに、加々見学の物言いにつられて、私も敬語で返す。
「小説なんて書くんですね」
「ええ、まあ。____って、えっ!」
いつのまにか、私のノートを手に取っていた加々見学は、表情を変えずに私をとらえる。
「将来は小説家ですか?」
私は言葉に詰まった。
笑って、こんなのただの趣味だと、そう言えば良いのに、なぜか言葉がつっかえて出てこない。
きっと加々見学があまりにも真剣な瞳をしていたからだろう。
その雰囲気に飲まれた。
私たちは無言で見つめあった。
ロマンチックなものなんて何もなかった。でも、多分汚いものでもなかった。
いや、そんなものじゃない。
私はこの瞬間、ずっと昔の、それこそ子供のころの真っ直ぐさを思い出していた。
そうだよ。
私の夢は、今も昔もずっと小説家だけ。
そう答えたくなった。
そうして、真っ直ぐ自分の夢を語っていた頃に、戻れる気がした。
この瞬間、ここはとても純粋な空間だった。


