男女七人夢物語




「じゃ、体育委員の女子も決まりな。あっ、一葉。お前も引き続き議長やんねーか?」


そう先生が声をかけた本人は、授業中にも関わらず前の席の女の子の髪に編み込みを施している。


てっきり聞こえてないかと思ったが、真剣そのものな表情のまま、


「いいよ」

それだけ答える。


「いやー、一葉にはいつも助けられてるよ」

「褒めても何も出ない」

涼しい顔をして、編み込み終えたのか、一つ頷くと、


「ほら、出来たよ」

「うわー、ありがとー。さすが一葉お姉さま」

「あんたの姉になったつもりはないね」

そう言いつつ前の席の子の頭を撫でているあたり、本当に姉のようだ。

まあ、この子に限定せずとも伊藤一葉はクラスみんなの姉みたいなものだ。

本人はロングの黒髪をただ低めに束ねているだけだが、学校祭になるとクラスの女子みんなの髪をセットしてあげるくらいの女子力の持ち主だし、面倒見がいい。

それだけには止まらず、学校祭ではみんな“一葉の姉御どこ?”“一葉、なにやればいい?”とか、みんな頼りっきりで、去年も一葉一葉の大合唱だった。

それに笑顔こそ見せないものの、嫌そうな顔も見せず頼られたらきちんと答える姿。傲らないし、飾らない姿勢が人気を生んで。


今ではクラスみんなが一葉の姉御がいれば大丈夫状態だ。


また、クラスに止まらず恋愛アドバイザーとしても人気があり、一葉の姉御に頼めばどんな恋でも叶うとか言われてる。


あと、体育祭では抜群の運動神経と、ケガした男女の手当てなどと他方での活躍。


まさに付いていきたくなる姉御。これで男だったら、相当モテたに違いない。

しかし、伊藤一葉は女だ。

誰かと付き合ってるという噂はなく、本人も恋をする乙女な感じはまるでない。

伊藤一葉から見ればクラスの男子なんて幼稚園児なのかもしれないと、私がひそかに思うくらいだ。

とてもじゃないが、伊藤一葉がクラスの男子に媚びを売るとかデレるようなところは想像できない。

伊藤一葉が誰かと付き合うとしたら、相当押しが強いか、放っておけないタイプの男な気がする。


………将来、ダメ男に尽くしてそうで怖い。