とにかく、その言い伝えだかなんだかを信じているから、少し化粧をしてきたらしい。


「そんなことなら、俺ももっとカッコよくしてくればよかったな」


そう言うと、沙希はブンブンと左右に首を振り「澪はそのままで十分だよ!」と言ってくれた。


その言葉が嬉しいのと同時に、胸がチクリと痛くなる。


俺は沙希とごく普通に付き合いたいと願っていたはずなのに、いつから自分の欲望をぶつけるようになったんだろう。


頭の中で考えるのは沙希の白い肌が赤く染まるシーンばかりだった。


「最近ね、自分の中で自分がわからなくなるんだよね」


途端に沙希が真剣な表情になってそう言った。


「わからなくなる?」


「そう。なんだか、なにがしたいんだろうって思ってなにもかも投げ出したくなるの」


沙希は視線を窓の外へと向けた。


外には見慣れない景色が広がってきている。