「そういうわけだから、あきらめて」



「衣沙、せんぱ、」



「なるみこっち向いて」



いつも並んで座ることなんてないから、両手で頬を包み込まれると不思議な気分だ。

言われた通り彼の方を見れば、ちゅっと額に落とされるキス。そして、わたしの髪を梳く指先。



「今日一緒に昼飯食お?」



「え」



……いまわたし、お昼食べようって誘われた?

え、女の子もお弁当も日替わりの衣沙が、わたしとお昼を食べようって?




「昨日あいつと飯食ったんだろ?」



「ああ……さお?」



「そ。だから、俺とも飯一緒に食おう」



……なにそれかわいい。

さおに先を越されたから一緒にお昼を食べたいだなんて、まるでお気に入りのおもちゃを取られた子どもみたいで。



「俺のことお利口に躾けてよ、ご主人さま」



口角を上げて、すり寄ってくる衣沙。

今までどうすることもせずに居座っていた女の子がバタバタと慌ただしく部屋を出ていったのを見て、可哀想だなとは思った。



だからといって、何かするわけでもない。

最低なことを言うのなら、ほんのちょっとだけ、衣沙に特別扱いされている自分に対しての優越感もある。だけどわたしもあの子も、本当の意味で衣沙の特別には、なれない。