「女の子の匂いする」



「……イヌ?」



なんでもないように言われたけど、そういう言い方するってことは、少なくとも普段から俺の匂いを把握しているわけで。

なんか、それってめちゃくちゃ気恥ずかしくない?



「なら、衣沙はわたしのご主人様?」



「………」



「え、ちょっとそんな冷めた目で見ないでよ。

冗談に乗っただけなのに……って、え?衣沙?顔赤いけどだいじょうぶ?」



赤くなった顔を隠しているのに、覗き込んでこようとするなるみ。

それ以前にバレてんだけど、でも、こんなの赤面するに決まってる。




「ばーか」



「はあ……!?」



しれっとご主人様とか言うのやめて。

いまはじめてメイド喫茶にハマる男の心理をちょっとだけ理解したからやめて。



「そこは飼い主様じゃねえの?」



「あ、そっか……

ん? でも、ご主人様とも言うでしょ?」



「……もういいから帰ろう、なるみさん」



なるみが俺のイヌなんじゃなくて。

……間違いなく、俺がなるみのイヌだ。