「衣沙ー? ……やっぱりここにいた」



ガラッと開く空き教室の扉。

聞きなれたその声に、目の上に乗せていた腕をずらす。……霧夏専用と化してる、空き教室。



「……どしたの、なるみ」



「どしたの、じゃないわよ。

昼休みからずっと帰ってこなかったじゃない。もう授業全部終わっちゃったけど、帰らないの?」



「……帰るよ」



それより、なんでそんなに平然としてるんだ。

昼休みにあった出来事が、まるで何もなかったみたいに。



平然と話しかけてくるなるみの真意をつかめなくて、イライラする。

ソファから身を起こせば、なるみがテーブルをはさんで向かい合うソファに腰掛けた。




「どうでもよくなったんじゃねえの?俺のこと」



「はい?」



「昼休み、あいつと飯行ったじゃん。

俺に愛想尽かしたからなんじゃねえの?」



流れて落ちてくる髪が鬱陶しくて、搔き上げる。

今朝なるみにピンでとめてもらったけど、昼休みに女の子と遊んでズレたから、面倒で外したままにしてあった。



「さおと?

確かに一緒にご飯食べたけど、だからってどうしてわたしが衣沙に愛想尽かすことになるの?」



「違ぇの?」



胸ポケットに引っ掛けておいたピンをなるみに手渡せば、何も言わなくてもわかってるみたいに俺の髪をとめてくれる。

いつも通りのその行動は、確かに怒っているようにも呆れているようにも見えないけど。