「衣沙さんと?」
「そ。
でも衣沙は女の子とデートするから来ないって」
「いつも通りっすね」
「それがおかしいんだけどね」
デートで来ないことを認知されているのがおかしい。
"いつも通り"なんて、ほんと、ふざけてる。
「ま、言っても無駄だからいいんじゃない」
それだけ告げて、重い両開きの扉をガラガラと開く。
小学校に通っていたとき、グラウンドにあった体育倉庫の扉がこんな感じだったな、とどうでもいいことをぼんやり思いながら。
「あっ、姐さん……!」
中を覗けば、いきなり声をかけられる。
見れば今度は髪色が緑の彼が駆け寄ってきた。ああ、違う。緑じゃなくて抹茶色なんだって散々言ってたっけ。……たしかに鮮やかな抹茶色だけど。
抹茶色よりも緑色って言われる方がまだ喜べるのはわたしだけ?
……まあ、少なくともわたしは絶対そんな色にしようとは思わないけど。
「姐さん姐さん!
俺のモバイルバッテリー知りません!?」
慌てて駆け寄ってきた割には、別に急ぎの用事でもない。
でも「もう充電が切れそうなんです!!」と一言。彼にとっては結構重要事項らしい。
「ラックのいちばん右の引き出し。
次そのままにしてたら捨てるわよ」
この間片付けたことを思い出して、大きな液晶テレビを置いているテレビラックを指差す。
言った通りそこにあったようで、彼は「あざっす!」とすぐさま充電していた。……コンセントあるんだから、そっち使えば良いのに。



