「髪飾りみたいになってましたよ」
「ふふ、たしかに綺麗だけど。
……わたしに桜なんてガラじゃないでしょ?」
「……そうですか?
綺麗で繊細なところが、姐さんらしいじゃないですか。俺は好きですよ、桜」
休日だからまわりにもお花見を楽しむ人は多くて、賑やかだ。
早朝から張り切って場所取りしたらしい霧夏のブルーシートの上では、各々楽しげにこの時間を過ごしていて、なんとも微笑ましい。
なんだかんだいってかわいい後輩が多いせいで、「姐さん」なんて雑な扱いを受けても怒れないから困る。
……まあ、わたしだってみんなのこと相当雑に扱ってるけど。
「繊細でも綺麗でもないわよ。
相変わらずお世辞が上手いわね。さすがは1年の貴公子さま。そうやって口説いてるんでしょ?」
ふわふわと揺れるシルバーの髪。
メガネの奥の瞳を油断したようにゆるめた彼は、こてんと首をかしげて。
「なに言ってるんですか?
俺は、姐さんのことしか口説いてませんよ?」
「……だから、そういうのが口説いてるのよ」
「はい。口説いてますよ?」
「………」
なんだろう、会話が噛み合わない。
そういうことじゃないんだけどとわたしが眉間を寄せれば、さおは「だから」と、わたしの髪から取ってくれた桜の花びらを手のひらに乗せて。
「姐さんのことが欲しくて口説いてるんですけど」
ぽつり、言葉を落とす。
それに合わせたように吹いた春の風が、彼の手のひらにあった桜を、攫っていった。