「もはや末期ですね、なるみさん。

もしや目の前の俺が見えてない?」



粟田家のリビング。

ソファで少女漫画を楽しむなるみの唐突な発言にそう返すも、彼女は俺を真顔で見つめて。



「あら、どこにいらっしゃって……?」



「失礼だなおい」



……べつにいまさら期待なんてしてないけど。

彼女だって嘘ついたところで、なるみの気持ちが俺に向くわけじゃないって、知ってるけど。



「っていうか、衣沙。

そこまで言うなら王子さまになってよ」



「へ、」




ほら、いつだってそうだ。

そうやって俺の気持ちを揺らすことを、何のためらいもなく、なるみが言うから。



……だから、あきらめられなくて。

俺は初恋を引きずったままで、ずっと好きで。



「……ものすごく顔赤いけど」



「き、気のせいじゃねえ?」



「え、ちょっと。どこ行くの?」



「洗面所で顔洗ってくる」



離れる勇気なんてなかった。嫌われたくなんてなかった。だから踏み込めなかった。

……あきらめる、なんて。思ってもいないくせに、一体どの口が、言ってみせるんだろう。