『衣沙が甘いのなんて、なるちゃんにだけだよ?

もう素直に言っちゃえばいいのに、好きだって』



「……衣那くんわたしのこと揶揄ってるでしょ」



『揶揄ってないって。

満月も、なるちゃんが妹になったらいいのにって言ってるんだから』



くすくす。

電話越しに笑ってみせる衣那くん。結婚の話を衣沙から聞いたその日の晩に、わたしは結婚おめでとうの言葉を直接言った。



そうすればお礼のあとに『衣沙とどう?』なんて聞かれて、現状を告げたところで冒頭にもどる。

……ほんと、なんていうか、冗談じゃない。



「衣沙にその気がないんだから、

わたしが何言ったって無駄なだけよ」



ぼそっと告げながら、自分で自分の言葉に落ち込む。

わたしと衣沙の関係の歪さに拍車がかかっているのだとすれば、それは絶対にわたしのせいだ。




『その気がない、ね……』



「今日も入学式に行ってた子たちが帰ってきたあと、最後には女の子とご飯行ってくるって先に帰っちゃったのよ?

むりむり、本音で付き合ってらんない」



正直に言おう。

初恋の人は、衣那くん。……その言葉に嘘はないし、本当にわたしは、彼のことが好きだった。



だけどそれも、もう随分と昔の話だ。

……でも本当は衣沙のことが好きだなんて、いくらなんでも言えないでしょ。



さすがに言えないから未だに誤魔化して衣那くんを好きだってことにしているけれど、それもそろそろキツい。

なにが"慰める"だ。



本当に、腐れ縁なんて、ばかみたい。



『いっそ、引いてみたら?』