「だったらなおさら、

ここにいる場合じゃねえと思うけど?」



「………」



「なに言われたって、満月ちゃんと付き合ってんのは兄貴じゃん。

たぶん満月ちゃん、兄貴に今朝そう言ったこと後悔してると思うけど」



なるみは、間違いなくそういうタイプだ。

心底優しい女の子だから、自分の言葉で誰かを傷つけてしまったら、なるみ自身も傷つく。



「そういうときほど、

そばにいてやるべきなんじゃねえの?」



付き合ってから、よくわかった。

たぶんどれだけ俺がなるみのことを想っていたとしても、女の子はきっと男より感情に波があるから、絶対不安になると思う。



マリッジブルーだって、しあわせなのに不安になるわけだし。

俺らが思ってるよりももっと繊細で、不安定で、難しくて。……だからこそ一筋縄じゃいかない女の子相手に"両想い"っていうのは凄くて。




「付き合う前はわけあって避けたりしたけど。

……この先喧嘩したとしても、俺は絶対距離置いたりしないと思う」



何よりも、好きって気持ちが強いから。

仲直りできない間にほかの男に取られたら、たまったもんじゃないし。



「不安で過敏になってたとしてもさ。

……満月ちゃんのこと安心させてあげられんのって、結局兄貴だろ?」



「……助言してあげるつもりが、

まさか俺が衣沙に助言されるハメになるとはね」



「俺のこと素直に褒められねえのかよ」



兄貴はさっき、俺がどれだけなるみのことを好きなのか知ってるって言ってたけど。

……それは反対に、俺にも言えることだ。



「はやく帰ってやれば?」