っていうか、キスしたせいでくちびるに移ったグロスを衣沙が拭ってるのが、なんか、ずるい。
……なにその色気のある動作。
「あーもう……
離れがたくなるから玄関先で済ませようと思ったのに。帰りたくなくなるだろ」
言いながら、わたしをぎゅっと抱きしめてくる。
矛盾してるのにそれが嬉しいって思っちゃうんだから、わたしもかなり重症だと思う。
「っていうか、ちょっと大胆になるのとかずるいから。
……お前、ほんとかわいいね」
「っ、」
「そんなかわいい顔、俺以外に見せないで」
本当に、甘すぎる。
普段「なるちゃん」とか「なるみ」って呼んでくる衣沙に「お前」って言われたらきゅんとしてしまうのも、わたしが重症すぎるからなんだろう。
「……衣沙」
「ん?」
聞き返してくれるその優しい声も。
頭を撫でてくれる手つきも、甘い視線も、ぜんぶすき。本当はひとりじめしたいなんて思ったりもするけど、その瞳にわたしだけをうつしてくれるだけで十分だとも思う。
「だいすき」
「俺も。……大好きだよ、なるみ」
「……ふふっ」
見つめ合って、また距離が縮まる。
ねだるように彼の服を握れば、衣沙の「かわい」ってつぶやきが耳に届いて。