さおに静かに声をかけられて、ようやくそこで身体を離す。
衣沙はじっとわたしを見下ろして、それから頭を撫でてくれた。何も言わないってことは、もう大丈夫だって判断したらしい。
「だいじょうぶ。ごめんね」
「いえ……俺こそ、すみません」
「別に謝ることじゃないわよ。
さおが言ってくれるまで、わたしも衣沙も絶対気づかなかっただろうし。言ってくれてよかった」
ふっと息を吐いて、顔を上げる。
「はじめくん」と名前を呼べば、彼が一瞬だけ目を細めた。……ああ、たしかに、似てるかも。
「気にしないで。
先輩のこととはじめくんは、何も関係ないから」
ただ兄弟だったってだけだ。
だからわたしは、先輩のこととは関係なく、はじめくんと普通に接したい。……なのに。
「……それは、どうかな」
「え?」
「そもそも、東西の因縁って何か知ってる?」
こてん、と。
無垢に首をかしげられて、わたしは首を横に振る。衣沙に聞いてみたけど、衣沙もその「因縁」自体はどうやら知らないようだった。
「なんだ、知らないのか。
……ってことは、きみのお兄さんはよっぽどきみたちに話が入らないようにしたんだね」
「……兄貴?」
はじめくんが、衣沙に向けてそう言った。
ということは、衣那くんが関係してるの?



