「大丈夫だから、落ち着いて呼吸して。

俺のことちゃんと見て。……うん、そうそう」



ぽろぽろと、頬を伝っていく涙。

衣沙の優しい声に導かれて呼吸を取り戻すけど、涙だけが止まらない。



「大丈夫だよ、なるみ」



「っ、……」



わたしがちゃんと呼吸できているのを確認してから、衣沙がぎゅっと抱きしめてくれる。

そこでようやく、肩の力が抜けた。



大丈夫。わたしは何もされてない。

一方的にストーカーを受けた以外で、それ以外は何もされてない。怖いことなんて、何もない。



だって、守ってくれた。

衣沙が、わたしのこと、守ってくれたから。




「ん、落ち着いたな。

……ツキ。お前、1個下だから相手の顔まで知らなかっただろ。なんで知ってんだよ。っていうか俺も知ってたけど顔見ても気づかなかったわ」



「顔写真と……あとその、ピアスです。

シルバーのロザリオで、マークが入ってる……」



頭上から、衣沙の声が降ってくる。

落ち着いてもしばらく離れられなくて、彼の腕の中で、さおとの会話を聞いていた。



「ピアスぐらい似てるのあるんじゃねえの?」



「それはないよ。

このピアス、オーダーメイドらしいし。いらなくなったからあげるって、俺がもらったものだけど」



よく気づいたね、と。

冷静なはじめくんの声。……声だけじゃ感情は全然見えなくて、それが余計に、怖かった。



「……姐さん、大丈夫ですか?」