理解できて、いないのは。



「……ああ。

うちの兄がストーカーしてた女の子って、やっぱりきみのことだったんだ」



「っ、」



「トラウマの話聞いた時から、そうかなって思ってたけど。

俺の兄は俺と同じで冬霞の人間だったけど、通ってた中学は西中だったからね」



悪さしすぎてまわりが嫌ってたから東には通えなかったんだよ、と。

淡々と放たれている言葉をうまく呑み込めなくて、心臓の音が、やけにうるさい。



「なるみ。……なるみ?」



衣沙の声が、膜を通して聞いてるみたいに、遠い。

頭の中、ぐるぐるする。




「ちょ、ごめん。舞ちゃんちょっと降ろすな」



だめだ、息、しづらい。

っていうか、なんか、ボーッとして……



「っ、なるみ!」



「っ、」



目の前で、はっきり呼ばれた名前。

頬を優しく包み込まれて触れた体温に、ハッと我に返って、まばたきする。



「衣、沙……?」



動悸が止まらない。

変な汗だって滲んできてるし、頭がぼんやりするのはおさまったけど、指先がとんでもなく震えてる。ぽろっと、瞳から涙がこぼれ落ちた。