……にぶいんだよなあ。
なるみが鈍いし俺が甘すぎるから、結局こうやってなるみのペースに合わせなきゃいけなくなるし。
不満もあるけど、でも、やっぱり笑ってるのは見てて嬉しいし。
でもたまには、俺だって自分の気持ちを優先したい。
「なるみ」
ろうそくに火を灯して、おきまりの歌のあと。
なるみが17本分のろうそくの火を消せば、「おめでとう」の声であふれる。
その瞬間に、彼女の腕を引き寄せた。
「えっ、」
唐突だったから、おどろいたように声を上げる彼女。
まわりの騒がしさが、別の意味で色めき立つのを頭の片隅で聞きながら。
「誕生日おめでとう」
くちびるを離して囁けば、さっきまで笑ってたその表情が、真っ赤になって俺を見上げる。
付き合ってからキスもよくするけど、こうやって人前でのキスははじめてで。
「セクハラ……っ」
よっぽど恥ずかしかったらしい。
かがみこんで両手で顔を覆ったけど、見えてる耳まで見事に真っ赤。……かわいいけどね。
「ほら、ケーキ食べるんじゃねえの?
そんなとこで蹲ってないで、こっちおいで」
「っ、だれの、せいだと」
今日のデートを楽しみにしてたんだから、つぶれた代わりにこれぐらい許してほしい。
なんてこっそり耳元で囁けば、なるみはまた真っ赤になってしまう。



