「ねえねえ衣沙っ、見て!」



駆け寄ってきて、俺の腕をつかむなるみ。

そのまま「ほら」と指差されたのはさっきまでなるみが「すごい」と感激していたケーキ。



デコレーションが凝ってて、かわいいもの好きななるみがはしゃぐ気持ちもよくわかる。

わかるけど、ちょっと空気読もうかお姫様。



「この薔薇もハートも、お砂糖でできてるからぜんぶ食べられるんだって」



「……うん、聞いてたから知ってる」



「こっちのハートはチョコレートなの」



……でもそのうれしそうな顔を見たら、怒るに怒れない。

別に店を予約してたわけでもないし、ほかのメンツが本当になるみを心の底から慕ってるのも、一応知ってるつもりだけど。




「なるみ」



「……? なぁに?」



これでも、色々考えてたわけで。

兄貴となるせに散々ダメ出しもされたけど、プレゼントもなるみが気に入りそうなものを用意してあったし。



何よりふたりで過ごしたいって気持ちが強くて。

うん、つまり、何が言いたいかって。



「はしゃぐのもいいけど。

百が待ってくれてるから、はやくろうそくに火つけてもらったら?」



……っ、違う!

デートしたかったって言いたかったんだよ俺は……!



なのに大きな瞳でじっと見つめられたら、文句のひとつも言えない。

そんな俺の心情になんて気づかない彼女は、「あ、そうね」なんてのんきだし。