べつに運動不足ってわけじゃ……

いきなり走って、しかもツキを呼び止めてたから、ほんのちょっと疲れただけで。断じて息切れとかしてないから。わずかだけどしんどいなとか思ってないから。



「で、呼び止めて何の用ですか?」



「わかったから逃げたんだろ」



はあ、と大きくため息をつく。

呼吸も表情もまったく乱れることなく俺を見るツキ。走ったあととは思えない。若いってすげえな。



「……、わざわざ俺を追いかけてきたってことは。

姐さんと、上手くいったんですよね」



「上手くいったよ。

……だから赦してはないけど、怒ってない」



むしろツキが一気に迫ったおかげで、俺も呑気にしてられないなと思ったのは事実だし。

流兄のことも重なった……というかあれはなるせに仕組まれただけだけど、おかげで、無事に付き合えた。




「……まあ、赦してないって言っても。

俺が一方的に納得できてないだけだし」



何もしていないにしろ、そんな気はまったくなかったにしろ、なるみの肌に口づけて痕を残したのは事実。

それを俺が上手く忘れられてないだけのこと。ツキが悪いとか、そういうことじゃない。



「……彼女。大事にしてやれよ」



「してますよ。衣沙さんよりは」



「俺だってなるみのことは大事にしてるっての」



俺の言葉に、「知ってますよ」とツキは笑ってみせる。

……なるみのことさえなければ、いいヤツなんだよなあ、ほんとに。



「ああ、そうだ。

これ、渡してほしいって頼まれてたんですよ」