後ろ手で扉を閉めて、なるみに近づく。

名前を呼んでも、起きる気配はない。泣いたのか頬に薄ら残る細い痕に、言いようのない感情ばかり湧いてくる。



……こんなことなら。

なるみのこと泣かせてでも、奪えばよかった。



「………」



手を伸ばして、部屋着にしているゆるめのシャツの襟を軽く引けば、胸元に痕が残ってるのが見える。

花びらみたいな独占欲の証。



ふたつのうち、ひとつは俺。

つけて数日だけど、すでにツキがつけた方は薄くなっていて。



「……好きだよ」



つぶやいた声に、なるみが返事するわけもない。

なめらかな頬に指を滑らせると、なるみは小さく身じろぎする。……ばかみたいに、無防備で。




シンとした部屋の中。

どこからか、アナログ時計がカチカチと秒針を刻む音だけが聞こえてくる。



うるさいのは、痛いほどはやく動いてる自分の鼓動だけ。

片手をベッドにつくと、ギシリと音が鳴った。



「……ほかの男に、触らせてんじゃねえよ」



触れた温度が、あまりにも優しくて。

たった一瞬なのに、経験ならなるみよりもずっとあるのに、今までにないくらい緊張した。



そのくちびるのやわらかさに、思考を狂わされそうになる。

これ以上何かしてしまわないように、ゆっくり距離をとって、ため息をついた。



「あー、も……まじで、何やってんの俺……」



いくら衝動的とはいえ、寝てるなるみにキスするなんて、起きてるときより圧倒的にタチが悪い。

……一体、どんな顔で会えって言うんだ。