『姉ちゃん、が……
っていうか……流兄、が、かな』
「……? どしたの、なるせ」
『や、うん……落ち着いて聞いてくれる?』
「すげえ落ち着いてるけど」
『姉ちゃん、流兄に……
キスされたみたい、なん、だよね……』
すぐさま後悔した。
というより、頭ん中真っ白になった。
「は?」って相当間抜けな返事をしたと思う。
まわりの流れに乗るように青に変わった信号で歩き始めるけど、喧騒は一切頭に入ってこない。……なに、キスされた?
『いや、ほんと、ごめん……
彼女から連絡あって一瞬席外して、もどってきたら姉ちゃんあきらかに様子おかしくてさ……』
「………」
『何も言ってないけど……
なんとなく雰囲気で分かっちゃったんだよね』
……俺が忘れてた、もうひとりのライバル。
今日会うまで、流兄がなるみのことを好きだったことなんてすっかり忘れてた。
だから駅前でふたりを見たとき、心底おどろいたし。
何でもないように振る舞いつつもなるみのことが好きな流兄と、それを知らずに楽しそうに笑うなるみに何度もイラついた。
嫉妬だってことはわかってるけど。
……俺以外の男の前でしあわせそうに笑ってるなるみの表情なんて、俺は断じて見たくない。
『衣沙兄……?』



