「い、衣沙……?」
背中に手を添えてくれていたから、壁に激突せずに済んだけど。
どうしたの?と顔を上げたら、予想以上に距離が近くて声が止まる。
……っ、数日前の壁ドンはもう古いんじゃ?発言を取り消させてほしい。
胸きゅんに古さとか関係ない……!
だめだこれどきどきする……!!
「……顔、赤くなってるけど」
「だ、だって衣沙が、」
こんなことするから。
いつ誰が通るかもわからない場所で、こんなふうに押さえつけられて、動けなくて。でも衣沙の視線はヤケに優しくて、どうしていいのかわからなくなる。
「……あんま無防備にならないで」
「え?」
「なるみは俺のだから。
……流兄に優しくされてなびいたりしないで」
べつにいまさら衣沙以外の誰かに靡かないけど。
……あと"俺の"って言われるの、毎回ひそかにどきどきしてるからやめてほしい。
「……もしかして、やきもちやいてるの?」
「っ、」
なんとなくそう思ったから口に出してみると、一瞬にして、不自然に逸らされる視線。
ぱちぱちと瞬きしながら衣沙を見つめているうちに、彼の頬は赤らんでいく。



