流くんが自然と持ってくれたから、それならおまかせしようとお礼だけ言えば、隣にいた衣沙が小さく何かをつぶやいた。
周囲のざわめきでそれを拾い切れなくて首をかしげると、「何もないよ」の一言。
「っていうか渡すなら、
俺が聞いたときに渡してくれればよかったのに」
「え、だって持ってもらう気はなかったのよ?
でも流くんが持ってくれたから……」
「……わかってるけど」
「姉ちゃん。
衣沙兄も、たまにはしっかりしてて男らしいってところ見せたかったんだと思うよ?」
「え、そうなの?」
っていうか男らしいところ見せたいって。
そんなことしなくても衣沙が優しいことは知ってるし、いざという時は頼りになることもわかってるのに。
「え、と……ごめん、ね?」
「……謝んなくていいよ」
拗ねるような声色で言われて、とっさにもう一度謝った。
だってまさか、そんな風に思われてるなんて知らなくて。……あれ?でも、待って?
「……ねえ、なるせ」
いつの間にかわたしの身長を追い抜いてしまった弟の服を、くいくいと引いて呼ぶ。
「なに?」と向けられる綺麗な顔。うんかわいい。
「男らしいところ見せたいってなに……?」
だって衣沙のだらしないところも、わたしはさんざん知ってるのに。
いまさらどうして、男らしいところを見せたいって思うの……? なにそれ、どういうこと……?



